現実と幻想のシンクロ

イーハトーブは”賢治さんの心象風景”だが、”現実世界の岩手”とシンクロする。現実と幻想の共存。イーハトーブに、1954年ジーン主演のブリガドーンを思い出した。こちらは、ニューヨークとブリガドーンのシンクロ。

ブリガドーンBRIGADOON

休暇でスコットランドに鴨撃ちに行った二人のアメリカ人、トミーとジェフ。そこで、100年に一日だけ現れる伝説の村ブリガドーンに迷い込み、村娘フィオナと出会う。トミーは彼女のためそのまま残ろうとするが、ジェフに説得されて渋々ニューヨークへ戻る。しかし、フィオナへの想いが募りジェフとともに再び村を訪ねる。

色彩の魔術師ミネリ監督に、ジーン・ケリー、ヴァン・ジョンソン、シド・チャリシー主演という”ザ・MGM”ぞろいの映画だが、50年代半ばにシネマスコープで撮影され、40年代全盛期のド派手さはなく、しっとりとしたミュージカルだ。戦前、戦中に製作された底抜けに明るいタイプは、もう陳腐になったのかもしれない。それでも、4万平方フィートの巨大屋内セットや、主演だけでなく振り付けも担当したジーン渾身のバレエは見どころだ。普段ミュージカル映画に苦手意識があるという友人も、この映画はよかったと言っていた。

1945年「錨を上げて」で、映画で初めて機材を街中に持ち出してロケ撮影に成功したジーン。彼は、この”ロケ”撮影にこだわりを持っていたというから、この屋内巨大セットでの撮影は少し物足りなかったのではないかと推測する。

ちなみに、先に述べたバレエ。ジーンと言えばタップダンスの神様だが、この時期はバレエダンスに傾倒しており、数々の映画でキレッキレのバレエダンスを披露している。この映画のお相手は、シド・チャリシーで、彼女はバレエ出身の女優さん。製作陣から(運命を変えてしまうほど)容姿について言及されたジュディーとは対照的に、スラッと長い手足でスタイル抜群の彼女の容姿は”パーフェクト”だと言われていたらしい。”セクシーで凛としたスマートな女性”が彼女の役どころ。ただ、今回彼女の歌は吹き替えされている。

ジーンとチャリシーとは「雨に唄えば」で初共演している。バレエダンサーであるチャリシーが後年のドキュメンタリーで以下のように語っているのを見たことがある。

ジーンの振り付けはアクロバティックで低重心のスポーツ。過酷な練習でいつもアザができてしまうの。一方で、もう1人のダンスの神様アステアは彼とは対照的。優雅で体を上へ伸ばすようなダンスなの。だから、アザができているかどうかで共演者が分かるよと冗談ぽく旦那が言っていたわ(笑)

2人の見事なダンス共演は他作映画でも堪能できる。この映画ではどうだったのだろうか。

これは完全に好みの問題だが、バレエよりタップ派、40年代〜50年代前半底抜けに明るいミュージカル派には少々退屈に感じる場面が多い。ストーリーは、忙しない現実社会のニューヨークと幻の(スコティッシュ感あふれる)ブリガドーンの”シンクロ”でロマンチックに仕上がっている。