リトル・インディアの朝
朝ごはんルーティーン
じゃ、また後で。
まだホステルでゆっくりしているマッキーにそう言ってホステルを出る。食の好みが違う私たちは、朝食を別に摂ることにしている。
早起きして過密スケジュールをこなすのが観光客らしい行動なのか、今となってはもうよく分からない。ただ、私たちは毎日10時頃に目を覚まし、それからベッドで少しゴロゴロしながら、よほど何かの予約でも入れない限り、昼前にホステルを出る。
ホステルの真横をはじめ、いたるところでインフラ工事が行われていて、出稼ぎにきている兄さんたちが早朝から汗ばみながら仕事を淡々とこなしていた。(早朝の工事音で目が覚めることは何度もあった)
目覚まし時計に始まり、出社時間に間に合うようにと満員電車に詰め込まれ、”早く”、”早く”とそんな興醒めな日常生活のデジャヴュは、ここに来てまで必要ない。
と、言い聞かせるような口ぶりで書いているが、実際にこのエリアを歩いていると、急かされるような気持ちなんて一切湧いてこない。不安定な日常が、この世界のどこに存在していたのか、もはや記憶にもない。ただ、このカラフルな建物とヒンディー語を眺めながら、何も考えずぷらぷらいつもの場所に歩いていく。目の前を、納品のトラックが忙しなく通りすぎていった。
この街は、昼過ぎや日曜になると観光客や出稼ぎ人たちでごった返すが、平日の昼前は静かで穏やかな時間が流れている。見慣れた場所や言語に囲まれていたならば到底感じないであろう”新鮮さ”がここには満ちている。
クリシュナーさんにいろいろ教えてもらったおかげで、この場所はすっかり馴染みの店になった。顔立ちだけ見ればチャイニーズ系の女性が毎日1人でやってくるのは少々珍しいようで、すぐに顔を覚えられた。スタッフのほとんどは英語を話さないので、英語は通じたり、通じなかったりだが、聞けば皆何かと親切だし、地元の人たちで賑わう店は、なんとも居心地がよい。
観光客(私だけ)にはカトラリーを持ってきてくれるが、顔を覚えられた2、3日目からはカトラリーなしで提供されがちだ。新しい作法習得のため、皆さんを真似てとりあえず挑戦してみた。
マサラ・ドーサ
朝食のおすすめはいろいろあるが、このドーサは気に入っている。ドーサだけでも何種類かある。
素手で食べるのは、見た目以上に難易度が高い。ドーサと具、タレの配分を考えて食べないと、すぐに手づかみ不能になる。なす術もなくなって、結局カトラリーを頼む羽目になる。
ドーサは大きく(と言ってもうまいのでもう一つくらい食べてしまいそうになる)、この味変で楽しみながらたいらげる。美味しいのでサクッと食べてしまうが、腹持ちがよくて胃もたれしないのでお気に入りだ。ちなみに、地元の女性はもっと軽いメニューを食べている方が多い印象だった。
手づかみで食べる方ときは店の奥に洗面台があり、そこで食事の前後に手を洗う。
本当に居心地がいいし、美味しいので私は毎日毎食ここでいいのだが、そんなことするとマッキーが発狂しそうなので自粛しておく。(そんなことしたら一緒に食べる機会が全くなくなって、”女子旅”的なノリが皆無になる)
支払いは現金か、現地発行のクレジットカード。
腹も心も満たされ、まだ清々しさの漂う外に出る。太陽の日差しが少し強くなり、街が活気付きはじめていた。私はいつものように向かいの雑貨店に入り、「こんにちは。いつものください」といつもの兄さんに話しかけた。彼は「英語はちょっと、、」と言いながらいつも笑顔の対応が心地よい。そうして、マッキーの待つ場所へと向かって歩いていった。