おさびし山

雫石のおさびし山

そば屋を出て、北西の方向を目指して走り始めた。

これまでの道でも人は見当たらず、車もときおり横を通り抜けていく程度だったが、そば屋を出てからというもの、さらにあたりは静けさが増した。曇天の空模様と相まって、思わず言葉がついて出た。

おさびしやま

ムーミンのそれとはイメージが異なるが、あれがムーミン谷のおさびし山なら、ここは雫石のおさびし山だった。

もともと、ここまで来る予定ではなかった。チャリでどれだけ漕げるかわからなかったし、他にもまだまだ行きたい箇所をブックマークしていたこともあった。雫石駅の物産館である情報を耳にするまでは。

それが目的なら、ここですね。

指さされた先は駅からはるか遠く、網張温泉のほうを指していた。そう言えば、同僚たちが周辺の温泉を教えてくれた際に”網張温泉”という言葉は何度も耳にしたことがある。

見てのとおり、距離もありますし、ここに行くには自転車で漕ぐのが辛いと感じるくらいの坂道が続きます。よほどの健脚でないと難しいかもしれません。

慣れないチャリ姿勢にお尻は少し痛くなってきたが、これまでの調子からいくと余裕そうに思われた。

想像以上にグーグルマップは役に立つことが分かったが、チャリに連結するスマホホルダーが必須であることも同時に気づいた。(今度チャリ乗るときまでに買おう)

川に沿ってどんどん北上していく。聞いていた坂道も、たしかに少しばかり坂道だったが、綺麗に舗装されており走りやすい道だった。

途中分岐点があり、温泉旅館方面へ向かう道のようだった。ここで久々に車を見た。せっかくここまでやって来たことだし、同僚がおすすめしていたのもあって温泉に立ち寄りたかったが、荷物を軽くしたかったのと、時間配分を考え、今回は諦めた。

おさびし山と静かに流れる川。構成は同じように思うのに、高千穂とはまるで別世界だった。そして、改めて自分が岩手の地でチャリを漕いでいることを認識する。

故郷から遠く離れた土地を巡りながら、こうやって頭の中で、”自分は今ここにいる”と再認識するとき、嬉しさと可笑しさが混ざったような妙な感覚を覚える。

この違和感の認識みたいなことが、旅の醍醐味なのかもしれない。

玄武洞

県内有数の景勝地で、網張火山噴火の初期噴火で溶岩が固まってできた柱状の岩肌だそうだ。幅160m、高さ70m。今回の目的地のすぐそばにあるので寄ってみた。展望台になっている場所があり、ここには公共トイレもある。ここは、春の緑と秋の紅葉が素晴らしいらしい。訪れた時期、紅葉はまだだった。

道路と川の間には高いフェンスが設置されており、現在それ以上内部に入ることはできない。以前は川原のほうに立ち入ることができたそうだが、聞いたところによると、地震の際に崩落があり、その後は完全立ち入り禁止になったそう。内部に入れるのかと思っていたが、残念。

そして、とうとう辿り着いた目的地、隣接する建物の門戸を叩いた。