餅ください

やっと着いた

夏過ぎの林を横目に、白く濁った川のほとりを全力で漕いできた。脳内でご褒美がチラつく。細いサドルにお尻が痛み始めたが、目的地目指して一直線。

目の前には巨大な溶岩石が鎮座していた。

そんな大自然のなかにポツリと現れた茶屋。

そう、ここが今回の目的地。

お餅ください!

一瞬きょとんとした表情を浮かべた店主の口からは、予想していなかった言葉が返ってきた。

あんころ餅ですね。すみません、たまたま今日は事情があってお出しできないんですよ。

絶句し、急に足やお尻が痛みはじめた。

距離はあるが、絶品の餅がある。そこにいけば、絶品の餅に出会える。その言葉だけを励みにここまで漕いできた。脳内で力餅が姿を消した。

玉こんにゃくならありますが。

昼前に十割蕎麦を堪能し、腹はそんなに減っていなかった。(これほど漕いでもまだお腹空かないんだ)

しかし、せっかくここまで来たことだし、店の雰囲気もよかったので、もうひとつの名物、玉こんにゃくを頼むことにした。

店内には、玄武の湧き水もしいてある。美味しい湧き水と、こんにゃくを堪能した。

それにしても、餅思うだけで、ここまで漕げてしまうんか〜

ふんばるときは、自分に餅を授けよう。

温かい店内で体力を回復し、その後のルートを模索していた。なんせ、本日最大の目的地には到達した。ここからは、”力餅”の呪縛から解き放たれるのだ。どこへ向かおうと自由なのだ。

そう、もっとはるか遠くに行こうとも。どうやら、ここからまだもっと奥に進んでいくと、秋田との県境、乳頭温泉方面にある千沼ケ原に抜ける登山ルートが存在するらしい。ルートを念入りに確認し、腕時計に目をやった。岩手の日暮れの時間が、関西のそれよりも数時間早いことを思い出した。土地勘ない夜の山中で迷子とか、勘弁。

そして、その決断が正しかったことを、チャリ返却時にしみじみと実感することになる。それは、まだもう少し先の話。

再びチャリに乗り、来た道をおとなしく戻っていく。