もの作りと縁のワイヤーワーク

最近またアクセサリー作りにハマっている。カオスなパーツボックスを漁っているとふとどんぐりが出てきた。丁寧なワイヤーワークと美しく磨かれたどんぐりにふと思い出す話がある。

手持ちかごに付けているどんぐり。接着面にいっさいのヨレ、ズレがない

アクセサリー作り

初めての現場は大阪だった。仕事にも慣れた頃、ある患者さんの手持ち品が気になって仕方がなかった。それは手作りチャーム。その頃、すでにアクセサリー作りが趣味だった私は、手作りのものを見ると細部まで観察するようになっていた。

それまでの数年間、大手有名パーツ屋(ここがなければハンドメイドデビューしてないかも)に通いつめ解説書や見事な完成系モデルをくまなく眺めながら基礎を学んできた。

ちょうどその頃は、チェーンからは遠ざかって各種レザー、ロープワークにハマっていた。レザーチョーカーを作ってはレザージャケットに合わせてハードモードに仕上げるのがお気に入りだった(現在好みの仙人系ハードモードとは別物、笑)

とうとうその患者さんの担当になった日、ウキウキしながら尋ねてみた。

それ、手作りですか?

どんぐりじいさん

その’おじいさん’は、杖にじゃらじゃらと大量のどんぐりチャームを付けていた。どんぐりチャームに杖が付いていると言ったほうが正しいかもしれない。

80代のその男性はきれいな白髪が印象的で、白い肌で血色は良く、柔らかい表情でいつもにこにこと微笑んでいた。見るからに感じのよい優しそうなおじいちゃんで、いつも後ろの角の席でゆったり静かに座っている姿が印象に残っている。長い待ち時間にイライラしている人、フレンドリーで繊細なマイノリティーの人、重い病状をあっけらかんと打ち明けてくれる人、病院友達との会話に華咲く人etc.人の数だけいろいろな人に出会うが、彼のまわりはいつも静かで穏やかだった。

なんや、君興味あんの?最近は足腰弱ってしまってあんまりやけど、どんぐりとか、せやなもっと珍しい実も拾うことあるわ。拾ってきて、処理、加工してパーツ付けてるねん。簡単やで?ようさん作りすぎてしまうから、どんどんここも増えてしまってなあ(笑)気に入ってるねん。

そして、「話が長くなったな。ありがとう。」と極上の微笑みで、ゆっくりと杖を付きながらその場を後にした。

驚いたのは次回来局のときだった。

どんぐりじいさんからのプレゼント

これ皆さんにどうぞ。ほら、君だけにあげたら贔屓か、なんか嫌やんそういうの。君褒めてくれたからな、作ってきてん。配ってあげて。

可愛いチャック袋には、それぞれ数種類の自然の実チャームが入れられていた。ちょうどスタッフ全員分揃っていた。スタッフの人数も数えてくれていたのだろう。皆でお礼を言いに行くと、「いやいやそんな大したことないよ」とはにかんで手を振りながらまたゆっくりと立ち去って行った。

どんぐりじいさん

現場裏では、敬愛の意味を込めていつしか皆そう呼ぶようになった。

皆どんぐりを白衣や小物入れに付けていた。

繊細なワイヤーワーク。ほれぼれする美しさ

私はどうしてもワイヤーワークは苦手だ。あれから年月は経ち、少しは上達したかなと思っていたけれど、改めて丁寧で繊細な彼の作品を眺めると、どんぐりじいさんの技術には到底およばないじゃないか!となんだか少し恥ずかしくなってきた。どんぐりじいさんの根付けは取ってしまったが、今後このどんぐりチャームとひっそりコラボを目論んでいる。

穏やかなどんぐりじいさんの笑顔が思い浮かぶ。