キャラメルフレーバーの道
早池峰の山頂を降り、分岐点を過ぎると一気に人を見かけなくなった。

剣ヶ峰の入り口に辿り着くと、こんな文言があった。
ここは登山道ではありません。
登山道としてルート整備はしていないから、きちんと装備をしたうえで臨むように、という意味らしい。そう言えば、先日の仙人修行でもそんなことを言われたが、あのときに比べればきちんと道があるように思われた。

実際、仙人が言うところの”登山道ではない”の意味ではなく、薮に激突することも高低差もほとんどない道は歩きやすく感じた。少し大人の事情も絡んでいる但し書きなのかもしれない。

むしろ、人が歩いて踏み固められた最低限の通路、稜線歩きの山道などは、ここ最近訪れたどの山歩きよりも心地よかった。

この美しい高山植物帯を眺めていると(いつもどおり)頭にミュージカル曲が流れはじめ、スキップ気味に歩き始めた。そして次の瞬間、モワッと濃厚なキャラメルフレーバーの香りが漂ってくる。八幡平のメルヘンハイクと同じ匂いだった。この岩手のお山には、キャラメルフレーバーの香りを放つ植物があるのだろうか。思い切り息を吸い込んだ。
そして、その香にUSJを思い浮かべた。

この稜線歩きは六甲縦走くらい距離があってもいいなと思うほど快適で、あっという間に山頂に到着してしまった。辛くなってきたときはいつも終着点ばかり思い浮かべて先を急ぐが、もっとゆっくり歩いてもよかったかもしれない、とさえ思った。

八幡平からの茶臼岳、早池峰山からの剣ヶ峰。
メイン山の隣でおまけ程度に見える山のほうが魅力を放っていることもある。そして、そう感じた道にはいつでもキャラメルフレーバーの香りが漂っている。