最恐のアタック

ポーランド最高峰 Rysyを目指して

やはり下山組が多いようだ。吹雪はおさまっていたが、キリッと冷えた空気で温まっていた体が急速にまた冷え始めた。ここから頂上まではだいたい1時間程度と言われている。

積雪が見られるが、チェーンスパイクは出番なし(右の黒い建物が山小屋)

歩き始めてすぐに、また雨が降り始めた。”魔の13時”が過ぎるとそれは翌朝まで続く。おそらく天候回復の見込みはない。豪雨と暴風で騒がしかった昨日の深夜、どこかに落ちたらしい雷の轟音でホステルは大騒ぎだった。

ガスガス。視界がどんどん不明瞭になっていく。チェーンもハシゴもないけれど、浮石が多い。

快晴であればもっと景色を愛でながら登れただろうに。そんなことを言っても仕方がない、山なのだから。怖い?やめておいたほうがよかった?突風でお互いの声も届かなくなり、フードのなかでの自己問答が始まった。

それでも、進んでいく。もはや下を見ても景色はない。たぶん絶壁なのだろうが、いいのか悪いのか、見えないことでその手の恐怖は隠されていた。同時に絶景も隠されている。それよりも、突風と豪雨で立っているのがやっとで、フラつけば浮石を踏みそうで気が気でなかった。

なんとかたどり着いたてっぺん。突風と豪雨で立っているのもやっと。

普段であれば、「なんでガスってるの?!」と愚痴のひとつでもこぼすところだが、その余裕さえなかった。とりあえず辿りついてよかった、それだけだった。

登頂!!

視界ゼロで場所で長時間過ごす理由もなく、写真だけとってすぐさま下山。どこでもドアが欲しい瞬間上位にランクイン。視界がないので、ゆっくり慎重に下っていく。

なにこれ、マジでやばい

突風に落雷、豪雨は雪からひょうへと変貌した。ひょうはゴアを突き破りそうなほど激しく体を打ちつけて、突風にあおられて無数の落石発生、豪雨で行き場を失った水が川と滝を形成しはじめた。とどまるも地獄、進むのも危険。中途半端な石にしがみついたものの、この石は果たして信じていい石なのだろうか。足もとの濡れた石、このヴィブラムのソールはどこまで信頼できるものなのだろうか。かじかむ手でうまく石がつかめない。ひとつだけでもおさまってくれたら。ちょっと待って、そう願って止まるはずもない。叶うはずもないちっぽけな人間の願い。そう、ちっぽけな人間に敵うはずもない自然の姿。

もうダメかもしれない。

フードのなかが無音になった。

どうやっても太刀打ちできない自然への畏敬だった。

あなた、大丈夫?

無音のなか立ちすくんでいると、後から下ってきていたカップルが声をかけてきた。人の声で我にかえった。そうだ、安全に戻らなければいけない。「ありがとう、大丈夫です」目の前にできた川に下山のルート変更も必要だ。

まずは冷静に状況判断。無心で石を選んで下っていく。ガスのなか散り散りになって見えなかった人の影がちらほら見え始めた。ようやく平坦な道におりてきた。

生きてるね、私たち。ほんとによかった。

もう無音ではなかった。登頂の喜びよりも、無事に戻ってきたことに安堵した。あっという間の出来事だったようにも思うし、果てしなく長い冒険だったようにも思う。喜びをかみしめながら、私たちは再び山小屋に入った。