志波三山
紫波町、矢巾町、雫石町、盛岡市に連なる志波三山。東根山、南昌山 、箱ヶ森の三山を指し、特に南昌山は花巻出身の宮沢賢治も愛した山として知られている。この連山を知ってから、どこにいても自身の居場所がだいたいわかるようになった。私の中でのランドマークだ。賢治さんの頃は、今よりももっと広大な農地が広がっていて、この連山を眺めていたに違いない。

霞む奥羽山脈
休みだというのに大雨続き。そろそろ嫌気がさしていた。
雨だからってハイクをしない理由ってなに?
雨の多いお国柄、ニヒルな表情でブリティッシュジョークをかましてきたイギリスの友人。雨の日の山は、いつもこの言葉を思い出す。

その言葉に煽られるように、幻想的に霧がかった奥羽山脈を横目に、盛岡よりもさらに南にある紫波町を目指し車を走らせていた。ガラスを打ち付ける豪雨で外は見えづらかったが、どこまでも続く深い蒼色の山脈にかかる霞のフィルターは、ここ数年で見た景色のなかでも上位を競う美しさだった。山脈というのがこれほど雄大で美しいものだとは知らなかった。思わぬサプライズに笑みがこぼれた。地理の授業で見た、東北に長く長く伸びていたあの奥羽山脈がそこにある。”ブリティッシュなユーモア”は、いつも思わぬ出来事をもたらす。運転中だったので写真はない。
志波三山のなかで最も南に位置する東根山の登山口に到着した。

豪雨の静けさのなかで
上下レインスーツを着込み、完全な雨対策で山に入る。雨の日ハイクは初めてではないが、先の見えない豪雨ハイクは初めてだ。東根山、不動岳の周回ルートへ向かう。



なぜこんな豪雨の日に、完全防御の作業服のような出立ちで、熊も出るという山の中に単独で入っていくのか。自分でもよくわからないが、山に入ると不思議と心が落ち着いていた。
数字や肩書きで表記される有名な山よりも、ひっそりして誰もいない、こういう地元の人に愛されるような小高い山が好きだ。そして、その土地の匂いや空気感を肌で感じる山行はたまらなく魅力的だ。
とは言っても、ガスって視界の悪い山は、熊にいつ遭遇してもおかしくない状況に感じられた。

大雨のなか雷鳴が轟く。



アブを避けながら進んでいくと、拳ふたつ分くらいの大きさのひきがえるに遭遇した。

暴風で木がザワザワとものすごい音をたてると、その後を追いかけるようにスピード感のある涼やかな風が登山道を駆け抜けた。

この東根山のルートは野生的ながら、きっちりと管理人の方が管理されているお山だという印象を受けた。あちこちに励ましの言葉や、疲れを癒してくれる小道具、休憩スペースなどが設置されている。


展望台
展望台に着く頃になると少し霧が晴れ、美しい田園風景を少しだけ垣間見ることができた。

前にも後にも登山客の行列で、熊鈴が鳴り響いていた先日の岩手山。今日の山行は道中誰にも遭遇することはなかった。

眺望は期待していなかったが、展望台から見えた静かな景色は美しく、何より行きの車中から眺めた山脈の絶景が脳裏に焼き付いていた。

住んでいる場所は、きれいな注文住宅の立ち並ぶ地区で、もしかするとこの場所に緑なんてないのかも、とさえ思うほどだが、ここまで車を走らせてみると広大な緑のグラデーションを見ることができた。

景色が見れたことで足取りは軽く、颯爽と駆け降りた。


ね、よかったでしょ
二ヒルなジョークのあとにドヤ顔をする友人が思い浮かんだ。
ただ、雨の日は、いつも以上にご安全に。