試験前に掃除はじめるタイプ

まっさん

文学部出身の彼女はアメリカ在住歴もあり、家業を継ぐため猛勉強のすえ薬学部に入学してきていた。当時、興味の中心だった”海外”、”文学”という2大ワードを網羅してきた彼女のライフスタイルは、私の憧れの存在だった。知識、経験の豊富さとそこからくる懐の広さ、ブラックユーモアあふれる独特の語り口なども、友人として心から尊敬していた。

彼女はたまにフラッと息抜きにニューヨークへ飛ぶこともあり、その時は代筆を担当した。帰ってくると、現地でしか手に入らないレアものの”映画グッズ(GeneとJudyのもの)”や”アメリカンなおもろ土産”を大量に携えて講義室に現れ、いつもプレゼントしてくれた。そしてまた、現地の情報も教えてくれるのである。のちに、私が海外へ飛び立つときには、率先して代筆を申し出てくれた。

都会の喧騒とスピード感に圧倒された

試験前などは、彼女と電話で数時間話しこむのが通例になっていた。

遅くにごめん〜。過去問のこの問題意味わからんねん。解いた?

私が、映画音楽のサントラをかけて試験勉強、いい調子で歌いはじめそうになる頃、彼女はよくそうやって電話をしてきた。同年代が多分、”恋バナ”とかで盛り上がる時間を、”このわけわからんもん(有機、物理化学などは宿敵だった)を学ぶ理由”について多くの時間を割いた(本題は仕方なしに後半少しだけ話し合うことにしていた)。

”試験前に掃除はじめるタイプ”が集まるとこういうことになる。しかし、この苦痛な勉強時間も、彼女と話すと、なんとか乗り切れそうな気になってくるのだ。(彼女も私もいつも笑いながら電話を切った)

こうして、大学時代はハリウッド黄金期の映画三昧だった私は、初めての海外旅行を迷うことなく映画の本場ロサンゼルスに決めた。初めての海外、わからないことだらけだった私に、まっさんはまず旅の便利グッズを貸してくれ、出入国のあれこれから現地でのノウハウなどざっくばらんにいろいろ手解きをしてくれた。

そんな心配いらんよ。大丈夫、大丈夫。ウチの親を現地に呼んだときは、空港からすでにヤバかってん。いや、おもろいねんけど、あれはカオスやったわ(笑)

実際の旅ネタなどは本当におもしろく、現地で思い出してはニタニタしてしまいそうになった。一方で、ドラッグや銃といったアメリカが抱えるリアルな闇については、”ここらは気をつけたほうがいい”と真剣な表情でマップに印をつけてくれた。彼女に貸してもらった赤色の小さなネックホルダー(パスポートを入れていた)が、手荷物検査場で出てこなかったとき、旅の初冷や汗をかいたのを今でも覚えている。

もうさすがに慣れっこにはなったが、街よりも空港のほうでヒヤリとしがちである。

2度目の海外、ニューヨークにて”人種のるつぼ”という言葉を思い出す

今後、こんなにおもしろい人に出会わないんじゃないの?”と不安になるくらい、彼女と話すのが楽しかった。