ルート計画
夕刻からの長い第二章に向けて、一旦車に戻りエネルギー補給をした。明日の分も含めて買っていたパンをほぼ食べてしまった。教えてもらったパン屋さんのパンが美味い。
ハイカーさんたちおすすめの池散策ルート。この時間からスタートは少し不安だが、どんな山行になるのか楽しみだ。地元ハイカーさんによると、もし遅くなっても、最近は19時くらいまで明るいわよとのことだった。
さて、ルートについて。案内図のとおり、噴火による規制が入りえびの高原から甑岳まではピストンしかできなくなっている。
予定池巡りルート えびの高原→白紫池→六観音御池→甑岳→火口湿原→不動池→(白鳥山)→えびの高原



夕刻の火口湖
えびの高原から池に辿りつくまでは眺望なしの石段をひたすら駆け上がる。池巡りコースは”登る”というより”歩く”感じ。

夕刻の人のいない池はどこか寂しく静かだった。壮大な大浪池ブルーを拝んできたばかりなので、池への感動が少し薄れている。条件が揃えば池に映りこむ景色が綺麗らしい。

日も傾きはじめ、人が誰もいないので早足でコース短縮しようかと考えていた頃、向かいから颯爽と歩いてくる女性ハイカーの姿を見かけた。人がいて少しホッとして通り過ぎようとしたとき、声をかけられた。

もしかして今から行かれるの?
彼女は地元ハイカーらしく、その日私と同じ経路を散策してきたことがわかった。そのつもりだが、下山の時間が少し不安だと答えた。
「甑までよね。そうねえ、あなた、既にそれだけ歩いてきて脚力ありそうだし、大丈夫だと思うわよ。以前、遅い時間に登りに行った登山客が戻ってこないんだって登山口のスタッフさんが慌てていたことがあってね、無理そうなら止めようと思うけど、大丈夫そうね。」
「ちなみに私も、以前、真冬の暴風の日21時近くに下山したことがあって、ライトをいくつか照らしながら下山したの。獣の声しか聞こえなかったわ。今は夏だから明るいしそこまでではないと思う。」
えびの界隈をよく知る彼女の言葉に励まされ、なんだか行けるような気がしてきた。短縮ルートにするのはやめて予定通り甑岳まで行くことに決めた。駐車場も24時間開いているらしい。
新調した初めてのハイカットシューズは、何度も捻挫を阻止してくれたが、そのぶん走りにくい。低山ちょいダッシュ用にトレランシューズ買おう。。
木々がうっそうと茂り、まだ空に残る光を遮って薄暗い。さらにスピードを上げて駆け出した。
甑岳の楽園

よくある感じの平坦な登山道の風景、木々の間を疾走する。頂上付近になると急勾配で狭い登山道が続いて失速したが、どこか高千穂でのワイルドな登山道を彷彿とさせるトレイルで、疲弊しながらも楽しかった。整備された人気のお山よりも、ワイルドなけもの道が多いトレイルは歩いていて楽しい。
細い抜け道のような場所から山頂に到着。


甑岳をぐるっと一周できると聞いていたが、下山時刻を考え今回はやめておくことにした。そしてこの奥に楽園へとつながる細い道がある。
そうだ、火口のなかに行こう
火口の内部に行けるとなると、時間より好奇心のほうが勝ってしまう。火口内はススキの草原が広がり湿原になっている。
湿原までの道は1本道になっており、生態系保護のためにその通路以外は通らないようにと注意書きがあった。人に会わないせいだろうか、時間帯がそう思わせたのだろうか。火口内部に入っていく感覚は、普段の山歩きとは全く別の、なんとも不思議な感覚だった。言葉で表しづらいのだが、異世界にお邪魔する、そんな感じ。山頂までドタドタと駆け上がってきたが、ここはソロソロと忍び足になっていた。
視界がひらけ、スゥーっと涼しい風が吹き抜けた。そして、無数の動くものが火口を取り囲む森林のほうへ扇型の群れをなして遠のいていくのが分かった。
あ、鹿ちゃんや。(忍び足なのに大地から感じるのね、野生すごい)
高千穂でよく耳にしたあの叫び声のような鳴き声も、間近で聞いた。

そして1本道はこの湿原にたどり着く。

空が映りこむ水面が美しくていつまでも見ていられる気がした。時間帯が違えばまた雰囲気が変わるのだろうか。ゆめうつつの不思議な感覚がずっと続いていた。ここもかつて噴火した場所なんだよなと思うと、さらに不思議な気分になってきた。天孫降臨伝説よりも確かな現実なのだ。
「おじゃましました」
湿原に、そこに生きる鹿ちゃんに、生態系に、大地に、火口全体に、別世界のような場所に、そう言って湿原を去った。

楽園から帰還し、いくらか疲れが回復していることに気づいた。下山は行きよりも軽快に駆け降りた。
不動池

不動池の前には県道が走っており、以前はここまでバスで来れたようだ。この道は規制がかかっているはずだが、歩行者のみ通行okのようなので行ってみることにした。


車両規制がかかっているだけあってこの付近は硫黄の刺激臭が強く、マスクを着用した。道路脇のいろんな箇所から煙があがっていた。

この歩行者okの道も不動池の端で通行止めになっており、もとの登山道に引き返した。
下山後
帰り道は真っ暗になり、日帰りの低山ハイカーはほとんど使う機会がないヘッドライトを付けて石段をかけ下りた。それはそれで新鮮で貴重な体験なのだが、足元の安全を考えて余裕を持った山行計画の大切さを感じた。
戻ってきた真っ暗な駐車場には、私の他に1台だけ泊まっており、どうやら泊まり込みの登山客らしかった。車に寝床を作っているようだった。
今回は、えびの周遊25km、11時間の山行だった。少し前に六甲山全山縦走を完走したことで、距離に対する不安感が少なくなったように思う。過去にバスを逃したナイアガラで10km、交通手段の絶たれたピコ島で20kmなど途方に暮れた記憶もあるが、年々山に登る回数が増えるごとに距離感覚が掴めてきているようだ。これも、学生時代の部活動のおかげだろうか。休日なしでの厳しい練習の毎日は当時かなりきつかったが、大人になってみてやはりやっておいてよかったと思い返すことが多い。
登山口や観光案内所に置いてある「霧島トレッキングマップ」を手に取ってみてください!霧島の主な活火山について、通行可能なトレッキングルートについて詳細に記載されており大変役に立ちました。宿でずっと眺めていました(笑)トレッキングをされない方も見ていて楽しいと思います。日本語と英語で両面に記載されています。