賢治さんを訪ねてvol.2

童話村から記念館までは距離にすると近いのですが、途中小雨がパラつくなかかなりきつい坂道でした。チャリの電動アシスト機能は使わないだろうと思っていましたが、ここで本当に助けられました。

花巻で賢治さん関連の施設はいくつかありますが、ここが一番賢治さんの人となりを知ることができました。他の館も訪問される方は共通入場券がおすすめです。

ここでは、スクリーン映像や関係資料などを5分野に分類し、解説と作品に至る創作過程、最新の研究成果などが展示されています。解説はかなり詳しく、どれも貴重な資料ばかりでした。ひとつひとつじっくりと読み耽りました。

岩手フィールドワーク

賢治さんのフィールドワークのマップです。岩手の自然を軸に成り立っていることがわかります。住んでいた滝沢周辺にもチェックポイントが点在しており、イーハトーブの構成要素であることを実感しました。私が登った山々も、賢治さんは実際に歩いていたのだと思うと感慨深かったです。

賢治さんの岩手フィールドマップ
有名なこの文字は、本人ではなく弟さんが書いていたという衝撃

多方面への才能

数々の資料から、宮沢賢治という人は作家だけにとどまらないことを多いに実感することができました。

才能のかたまり

岩手の自然を科学する賢治さん。理系のスケッチは影を付けてはダメだと習ってきたけれど、賢治さんのスケッチは全て陰影が付けられてなんとも芸術的でした。学生の頃、陰影つけたくて葛藤していたので、このスケッチには共感、賞賛しかありません。

陰影付きスケッチ

以前、姐さまがこう言っていました。

同じ岩手出身ということで何度も何度も学校で学んで辿りついた結論は、”あの人は変わっている”ということ。

その時、イーハトーブという言葉さえ知らなかった私は、”確かに文体が独特だしね?”程度にしか思っていなかったのですが、ここに来てみてそういうことだけではないことがわかりました。

思考が”あの時代の人”っぽくないのです。なんとなく、”未来人”のような思考を持っているように感じました。先見の明があるというか、自身の思う事柄への飽くなき探究心と忖度なしの行動力。

農業への興味などは、昨今の自給農普及活動への思いと共通点があるように感じました。現代であれば、早池峰山麓、八幡平近郊などでエコビレッジをしているかもしれません。これは行動力だけでなく、さまざまな学問に精通する知識があったことも大きな原動力になっているように思います。

農業の理想と現実直面した賢治さん

地元のキリスト教司祭とも懇意にしていた賢治さん。国際的な感覚も身についており、国単位で分つ言語ではなく、人類共通語としての”エスペラント語”の普及に邁進します。主に政治で印象づけられるその国の印象と、国民ひとりひとりはイコールではありません。私は、ここで初めて”エスペラント語”という言葉を知ったのですが、個人単位で、もしくはコミュニティー単位でエスペラント語が普及したとしたらどうなるのでしょうか。”バベルの塔”状態の地球はもう少しまとまりを持つのでしょうか。言語を理解したからと言って争いや混乱のない理想郷ができるわけではないのは、現在の地球を見渡せば明らかです。

しかし、このような言語は、不穏な現代社会が抱える問題解決法のひとつとして何かヒントが隠されているように感じました。

農民の生活を芸術にしようとした思想に共感

「農業ってかっこいい、芸術だ」の思想は共感しますが、資料からは、賢治さんがやはり過酷な現実に直面したことが伺えます。私もエコビレッジや自給農に興味がありますが、実際に自分の手を動かしてやっていくとなると、それを”芸術”と言うこと、言われることに対して首をかしげるようになるかもしれません。そう言えるようになるまで、一朝一夕ではいかないように思います。

菜食主義

そして、賢治さんはベジタリアンだったようです。主にアニマルウェルフェアの観点からのようです。”病床についてもまだ頑なにベジタリアンを貫いた”といったような文言もあり、ベジタリアン=変り者と捉えられた時代背景を感じました。ただ、洋食文化の普及で肉食が急激に進んだのは昭和の戦後以降なので、大正の時代では現代ほど肉食は普及していなかったのではないかと思います。

最近は、ヴィーガンやベジタリアン等菜食主義のオプションが少しずつ増えてきてはいますが、大正の時代に菜食主義を唱えた賢治さんの姿勢に”今っぽ”と感じずにはいられませんでした。

記念館からの景色

館内からの景色の美しさに息を呑みました。

ガラス越しにも見れますが、テラスに出ることも可能なので、ぜひ外に出て深呼吸してみてください。

ポランの広場

賢治さんが遺した設計書をもとに再現された公園です。200段ほどの階段があり、記念館に通じています。美しい花壇があり童話の世界を堪能できるそうですが、チャリなので往復して帰ってこなければならず、時間を考えて今回はスキップしました。

写真を見ると、心地よさそうな散策コースになっていたので、晴れの日に来館される方はおすすめです。

記念館をじっくり堪能して外に出ると、天気が回復していた