遠野物語の地

今年十月自分は遠野郷に遊びたり

遠野という土地は早池峰登山の際に少しまたいだが、あのときに感じた、(まるで上岩戸のときのような)、独特の空気感が忘れられなかった。

「遠野物語」はあまりに有名で、その作者柳田國男は同じ兵庫県出身とあって、いくらか親近感があった。兵庫県出身者が、岩手の山奥深く遠野に出会うのだ。遠野物語を読んだこともなければ、柳田さんがどんな方かも知らない。これを広義のスピリチュアルと呼ぶのかどうかはわからないが、その土地特有のスピリットみたいなものはその土地に赴かなければわからない。

此書を外国に在る人々に呈す

柳田國男「献辞 『遠野物語』」

近代化の進む明治時代、あらゆる事象を西洋的な解釈で説き伏せようとした時代背景のなか、未だ前代的な精神で生き続けている人々が日本にいるという疑いようのない事実を当時の社会に突きつけた柳田さん。

国内の山村にして遠野より更に物深きところには又無数の山神山人の伝説あるべし。願はくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ。

 柳田國男「序文 『遠野物語』」抜粋

「遠野物語」は、これまでの考えを否定し都市部に生活する一部の「平地人」に対する警告と山中には列島渡来の民族とは異なる先住異民族が生存しているという山人論を立証しようとする意気込みでもあったらしい。

その捉え方は、山へ登るようになってから”山岳信仰”、”自然崇拝”的な考えに興味をもつようになった自身にも共感する部分があった。

青空文庫で読むことができる

ちなみに、わかりやすいものが読みたいと手に取ったこちらは、関西人の私にも文体がコテコテ過ぎて読みづらかった。挿絵は可愛らしかった。

民話のふるさと

「遠野物語」には、天狗、河童、座敷童子など妖怪に関するものから山人、マヨヒガ、神隠し、臨死体験、神とそれにまつわる行事や風習など多岐にわたる。

遠野は自分たち岩手県民にとっても「”独特”の文化を持ってるな」を感じる不思議な場所なんだよ。岩手の風習というより、遠野の風習といった感じで一度見ておくといい。

この言葉は、岩手滞在中によく聞いた言葉である。

オシラサマ

遠野に行くまで、”オシラサマ”は聞いたことがなかった。遠野にある伝承園には、千体のオシラサマを展示している「御蚕神堂」がある。初めて聞く話ばかりで、日本の話といえども、まだまだ知らないことだらけだなと実感した。

オシラサマは、東北地方で信仰されている家の神で、蚕の神、農業の神、馬の神とされている。通常、伝承やそれに伴う儀式は、信仰している各集落や町内、家族や親族間の中だけで秘密裏に執り行われることが多く、未だに解明されていない部分が多いようだ。

ご神体の多くは、桑の木で作った1尺(30センチメートル)程度の棒の先に男女の顔や馬の顔を書いたり彫ったりしたもので、布きれで作った衣が多数重ねて着せられている。男と女、馬と娘、馬と男など2体1対で祀られることが多いらしい。

伝承館

岩手って”伝承館”多くないですか?

そう、岩手に来てからというもの、伝承館はよく聞くし、よく見る。地元では聞いたこともなかったし、”民俗学博物館”のような名前の館はよく聞くが、”伝承館”というのはよりもっと人々の生活に近いところで存在している感じがする。

早池峰で初めて訪れてから、伝承館はお気に入りの場所になっている。

ここ遠野でも、伝承園に出会った。

上記のような遠野の文化展示をはじめ、売店や食事処などがあり、遠野についてわかりやすく簡潔にまとめられている。遠野に来たら必ず訪れたい場所だ。