Wei Tuo Fa Gong Temple(韋陀法宮)

マッキーと別れ、爆速でチャリを漕ぎ始めた。どうしても行きたい場所があった。

観光客や軒先でにぎやかにラジオを鳴らす住民たちが集う中心地を一目散に通り抜け、さらに西方向に向かって進んでいく。1人になってから、何やら雲行きが怪しくなってきた。熱帯雨林がザワザワと音を立て始め、緑はいっそう緑味を増していた。ぽつりぽつりと降り始めた小雨が、激しく顔面を打ちつけた。早く漕げば漕ぐほど、激しさを増した。けれど、私は急いでいた。

どうしても、あそこは行かなきゃ

使命感でも、義務感でも何でもない。ただの好奇心だった。”ヘルメッツの本気を見てみろ”とばかりに、さらに速度を上げた。

ウビン島の寺院

目的地の手前に不思議な看板を見かけた。時間もおしていて、通常なら寄り道などしない。

この島の開放感なのか、スコールの洗礼なのか、導かれるように矢印に沿ってチャリを漕いでいた。メインロードを外れ、オフロード感が一気に増した。

宗教に見る多様性

辿りついた先には、不思議な景色が広がっていた。

地元の方が蝋燭に火を灯していた

向かい側には、チベット地方で見るようなカラフルな祈祷旗が吊るされていた。

カラフルな祈祷旗

えっと、お寺だよね‥?仏教の?

戸惑いながらも、日本のお寺との共通点を見出そうとしていた。それにしても、あまりに雰囲気が違うものだから一瞬参拝を躊躇した。

誰でもウェルカム

しかし、山口のどこかで聞き覚えのある言葉が脳裏によぎった。参拝に来ていた住人と目が合い、にこりと微笑んでくれたのが見えた。今日は何か行事でもあるのだろうか。奥の本宮では、主に女性たちが豪華で美味しそうな料理を調理、配膳していた。

雑然としているが、開放感があり雰囲気はよい

多神教だって?ここは本当に”仏教”の寺なのだろうか。いろんな格好、髪型をした住民たち。”仏教”でひとまとめにするには多すぎる神様。祀られ方の多様性ったら。いや、きっと違う。

後に調べたところによると、この寺院は仏教寺院であるにもかかわらず、土地の精霊やヒンドゥー教の神々、チベットの塔など、5つの異なる宗教の神々を祀っているそうだ。そのため、宗教の異なる信者が参拝に訪れるのだという。見慣れない祀られ方と、多くの要素が詰め込まれた本宮があまりに”雑多”と感じたのはそのせいだろう。寺院に収容されている神々の多くは他の礼拝所から持ち込まれたものらしい。

私以外観光客の姿はなかったが、住人たちは特に気に留めることもなく、本宮の片付けや配膳の準備を進めていた。その感じが逆に心地よく、さらに奥側へと歩いていった。

仏教のご本尊かと思えば、ヒンズー教のシヴァ神、ビシュヌ神などが次々と祀られている。いろんな宗教が同じ場所に祀られているなんて想像し難いが、実際に今目にしている。本土でも多民族のあれこれを見てきたが、宗教においても多民族国家をうかがうことができたのは興味深い体験だ。ウビン島には、ここ以外にも数多くの寺院があるそうだ。

そして、もしかして、女性たちが調理していたのは、お供え物だったのかも。

一番目を奪われた勇ましい神様たち、気になる

不思議な気分になりながら、もとの目的地を目指して再びチャリを漕ぎ始めた。雨足がより一層激しさを増していた。

この寺院に関して詳しく書かれている