風光舎

杞憂

私と来たら大したもんだ(オツベルと象風に)。そう、ここは胸を張って言いたい。

最初の目的地は、同僚に教えてもらった山奥の蕎麦屋に決めた。開店と同時に駆け込まないとすぐ満席になる人気店だ。雫石駅を出るとき、心配そうに急かされた。

あそこまで少し距離があるし、クロスバイクに慣れていないならなおさら、急いで漕がなきゃね。

チャリに乗ってすぐ、”ヘルメッツ”を思い出した私の脚。当たり前のことだが、歩くより速い。岩手山を眺めながらの爽快チャリ旅。想像以上に早く到着してしまった。

蕎麦屋開店までにまだ1時間以上あった。景色は最高だったが、立ち寄る場所も特に見当たらなかった。いつもどおり、道路脇のベンチなどもなく、こざっぱりとした田畑が広がっていた。過度に観光地化されていないことに安堵しつつ、田んぼの脇にチャリを止め、この時間をどうしたものかと考えた。

年々数少なくなってきたんだけれど、雫石にも格別のコーヒーを入れる店が多いんだよ。

蕎麦屋とは逆方向だったが、寄り道をすることにした。なんせ、時間はたくさんある。

風光舎

隠れ家のようなお店

ハーブの自生する店の軒先にチャリを止めた。なんでもないことなのだが、この止めたチャリを見ると、ここまで漕いできたのだなという自負と嬉しさが混じり合った達成感のようなものが沸々と込み上げてきた。まるで”チャリの人”の仲間入りをしたように感じられたのだ。

静かにドアを開けると、心地よい音楽が流れてきた。落ち着いた静かな店内、オープン間もない時間で、どうやら一番乗りだったらしい。

お好きな席にどうぞ。

品のよい感じのご夫妻が出迎えてくれた。洒落た喫茶店のなかには、派手色マウンテンパーカーを着て入るのをためらう店もあるが、この喫茶店にはその種の”お高くとまっている感じ”はいっさい感じなかった。チャリで走っているときにも感じていたが、ここ雫石の雰囲気はどこか親近感のわく感じがある。

そして、手渡されたメニューに載っているコーヒー豆の種類に驚いた。

コーヒーのことならなんでもお尋ねください。

メニューに記載されている説明文は丁寧で、オーナーご夫妻のコーヒーへの愛情が伝わってくるようだった。何種類か豆を買って帰りたかったので、好みを伝えて相談にのっていただいた。

また、コーヒーだけでなく、こだわりの手作りスウィーツも季節ごとに提供されている。ケーキ屋さんが毎日持ってくるものもあるようだが、こちらで手作りされているというかぼちゃのプリンを注文した。

濃厚な味わいで大変美味しかった。ゆっくり食べるつもりだったのに、ペロリと完食してしまった。美味しかったことをお伝えすると、

ありがとうございます。格別に美味しいかぼちゃを使っているので、きっとかぼちゃのおかげです。

窓辺の緑を眺めつつ、ゆったりとした時間を過ごした。時折ドアが開き、常連らしいお客さんが豆やパンを買いに来ていた。ゆったりと流れるサウンドと、静かに佇む窓の緑に、癒されていくようだった。

ここ雫石がさらに好きになった場所。林を駆け抜け、小道を進んだ森の先。