ふるさとは遠きにありて思ふもの

Be stranger

国内外どこか故郷を離れて過ごすとき、そしてその故郷に身を寄せているとき、どこに身をおこうともこの詩は奥深く響いてくる。ポルトガル風に言うなら、まさにこれがサウダーデだろう。

石川県金沢市にて

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの

よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや

ひとり都のゆうぐれに
ふるさと思ひなみだぐむ

そのこころもて
遠き都にかへらばや
とほき都にかへらばや。

室生犀星「抒情小曲集」
金沢市内のお地蔵様

室生犀星の有名なこの詩は、学生時代に出会って以降なぜかずっと印象に残っていて、いろんな土地で思い返してきた。犀星は、郷里の金沢にいて東京に帰ろうとする時にこの詩を詠んだらしい。その作品の雰囲気と彼の肖像からそこはかとなく漂う”孤独感”。彼の詩を想うとき、文学界で”成功者”である彼が晩年みせたという孤独な影が脳裏によぎる。丸メガネの奥に佇む孤独の詩。

室生犀星記念館

良い記憶はそのままに、そうでない記憶とは距離を置いて。その距離感でみるふるさとが、一番”綺麗”な状態で記憶に留めておくことができる。この文豪の文学観を形成したという悲劇的な生い立ちのトラウマなどがなくとも、ふとしたときに感じる寂しさが、多くの共感を呼ぶのだろう。私も多分そんなファンの1人なのだと思う。

「オズの魔法使い」は嫌いではないが、作品のコアである’There’s no place like home(家;故郷が一番)’には異を唱えざるをえない。

好むと好まざるとに関らず、”stranger(よそ者)”であることが心地よかったりする。アートディレクターの森本千絵さんが以前おっしゃっていたように「寂しがりやの1人好き」という言葉は本当にしっくりくる。

どこにいても思うのは、そんなふるさとの詩。

室生犀星記念館公式ページ