「美濃ヶ浜式」古代製法での塩作り体験

塩作り

塩作りと聞いてまず思い浮かべたのが、広大な面積を使った塩田製法でしたが、これは日本の塩作りにおいてはまだもっと後になる江戸時代以降の製法のようです。大量に塩が作れるので近代的ですね。

今回体験するのは、この地方で古代に行われていたとされる土器製塩法です。土器製塩とは海藻を用いて塩分濃度を高めた海水を、専用の土器(製塩土器)で煮沸して塩を採集する方法です。海水の塩分濃度はたった3%であること、また多雨多湿の日本の気候風土であることからもこの製法が理にかなっていることが分かります。30gの塩を作るために毎回1Lの海水いるのは少し効率悪いよね、じゃ海藻使って海水濃縮しちゃおうよ。そんな経緯があったかどうかは知りませんが、自給自足、少量で必要十分な生活だったであろう古代で、見事な生活の知恵だと感じました。

製塩土器

山口市美濃が浜では、古墳時代に使われていた製塩土器をはじめとする数多くの土器が出土されています。以前美濃が浜を訪れた際は全く知らなかったのですが、海岸沿いを意識して歩いてみると、その断片を見つけることができます。

土器探し

今回お世話になる専門家、山口市文化財保護課の北島さんに解説を聞きながら土器を探しました。北島さんは1断片/秒のスピードでいとも簡単に土器破片を見つけていたので、見つけるのは簡単そうだとたかをくくっていたのですが、いざ探してみると全く見つからない(笑)砂浜では、土器よりも綺麗な貝殻がアピールしてきて難易度高いです。

海岸には貝殻に混じって土器の破片が

北島さんの目はきっと土器レーダーが付いているんだな、なんて考えはじめていた頃、ようやく私も土器片発見!

黒ずんでいるのは熱していたからか

「美濃ヶ浜式」は薄い鉢形の身部に柱状の脚台が付く器形が特徴です。きのこのような形をしており、柱の脚台を砂浜に埋めて使用します。脚代の下部も少し窪ませてあり、この窪みにより、地中に埋めた際に安定感が増すとのことでした。

古代の塩づくりについて目を輝かせながら解説してくださる北島さん。質問すると全て的確な答えが返ってきます(すごい知識量!)。この古代の出土品と出会い、土器に残された古代人の指跡と自身の指が重なったときの衝撃は今までにないものだったと言います。現代と古代をつなぐ片鱗、古典文学好きの私もその部分に古代への魅力を感じており、海岸沿いで伺った北島さんのお話は興味深く、また共感することが多かったです。

美濃が浜にて、古代の塩作りはこんな光景だったのだろうか

見つけた土器片は海岸に戻しておきましょう。

古代製法再現

実際に砂浜での再現は難しいので、北島さんがホームセンターで揃えてきた材料を使って再現していきます。使用する土器はなんと北島さんの手作り!濾過、蒸発の過程が必要なので釉薬は塗りません。土器作りは、想像どおり手間と時間がかかるようです。

熱した炭で土器を熱していく

いよいよ土器に海水を注いでいきます。今回は、3種の濃度の海水を用意してくださっていました。まずは、海水そのものから。先にも述べたように、海水の塩分濃度はたった3%です。

海水を土器へ

続いて、海藻で濃縮したものも順に入れていきます。

写真右に写っているのが海藻で濃縮したもの、色が濃い

そしてひたすら待ちます。

まだかな、まだかな

しばらくすると、土器の側面から塩が析出してきました。

平べったい形の方が熱が伝わりやすく析出しやすかった印象

3種の海水のうち、海水と海藻を煮詰めて濃縮したものは海藻中の旨味成分が溶け出して美味しそうだったのですが、土器での製塩となると、旨味成分が熱されて雑味に変わり、美味しさは海水単独よりも劣ってしまうとのことでした。意外な結末。質問する事項はすでに全て比較対照実験されており、興味深かったです。

塩できた!

古代製法の塩は、海のミネラルを余すことなく摂取できるまろやかな塩味。1人暮らしだとこれでも十分な量だよね。

味見

生物が生きていくうえでかなり重要な役割を果たす塩。そのミネラルの種類やバランスをうまく保つことがヒトの健康にも深く関わってきます。ヒトの体にはホメオスタシスが働いており、健康な時にはその均衡が保たれています。しかし、そのバランスが崩れてしまったときヒトの体には異常が現れます。できる限り自然な形でミネラルを取り入れることができたらいいですね。

土器付きパッケージで古代塩販売しませんか(笑)

ザルツブルクの塩作り

以前、オーストリアのザルツブルクを訪れた際、「ザルツブルク=塩の城」という意味だと知り驚きました。なので塩作りと言えば、私はこの時の情景が思い浮かびます。こちらは、海水ではなく岩塩なのですが、約7000年前より岩塩採掘はザルツカンマーグート地方で行われ、(映画サウンドオブミュージックのオープニングのあの舞台です)その水上交通の要がザルツブルクだったようです。ザルツブルクの旧市街にはモーツアルトの生家もあります。

塩あるところに文化あり。

兜山古墳

古墳から見えるパノラマの景色

山口市内に古墳はいくつかあるようですが、散策できるようきちんと整備されているものは珍しいと聞きました。頂上まではスニーカーで簡単に登れます。古墳時代の若年女性が埋葬されていたようです。このあたりは女性の長の棺が見つかることが多いようで、時代は違いますが、どこか卑弥呼、邪馬台国のようなイメージが思い浮かびました。この人たちが塩作りを日常的に行っていたのでしょうか。

眼下に広がる美しい美濃が浜を眺めながら、悠久の時に思いを馳せるのもいい時間です。

北島さん、お世話になりました!